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大澤孝征著「元検事が明かす「口の割らせ方」」を読む

この本は、どこかの媒体で紹介されていたわけではない。
書店で面白そうなタイトルだったため、手に取ったみた。
タイトルの印象からすると、「隠し事なら何でも聞きだせる手法」を伝授してくれそうな雰囲気がある。しかし中身はそうではない。
口の割らせ方、というよりも、相手に本音を語ってもらう方法、という言葉が中身により近いかもしれない。
大澤氏が10年間、検事として仕事をし、またそれから40年間、弁護士として仕事をした際に学んだ経験談だ。

この本は、検事や弁護士でしか経験できないような体験談が盛りだくさんだ。
反社会的広域団体のルールや、殺人事件の被告との向き合い方、結婚詐欺師や精神疾患を抱えている、あるいは抱えているフリをしている人についてのエピソード、枚挙にいとまがない。
被疑者たちは、最初は本音を語ることはしない。こういう人に対して、どうすれば話をしてくれるのか、どうすれば心を開いてくれるのかという事が書かれている。

この本が一貫して我々に語り掛けていることは、相手を信頼し、相手を理解しないと、相手の心は開けず、本音で話をしてもらうことはできない、と言っている。

『いいか悪いかという価値判断や、批判や糾弾は後に回して、まずは相手を理解することから始めなければなりません。「人のやることは理解できるはず」という心づもりで当たらなければ、検事の仕事は務まらないのです。』(P42)


自分が理解ができないことを、断罪したり非難する事は簡単だ。
しかしそれでは何も解決しないし、意味がない。
少し長いが引用する。

『最近は、凶悪な少年犯罪も増えました。十代の少年少女が残虐な犯罪を起こすたびに、メディアは彼ら「モンスター」の心の闇について触れ、多くの人が衝撃を受けます。
しかし、少なくとも裁判に関わる法律家は、彼らをモンスター扱いしてはいけないと思います。もちろん、罪を犯した彼らの行動は間違っています。正しいことではない。
しかし、その行動や考えが許されるか許されないかは別として、彼らの話している内容は「理解できなくはない」と捉えなければ、彼らがどういうことを考えて犯罪に至ったか、本当のところはわかりません。/こうした凶悪犯は「鬼畜」とか「人間ではない」と言われますが、私は「なるほど。そういう考えでやったのか。特異ではあるが、あり得る」と思います。もちろん、鬼畜の仕業と言えます。幼い子に対して、よくこんなことができるなと思いますが、思考と行動のエスカレートのプロセスは理解できます。それは善悪とは、また別の話です。』(P44-P45)

『相手から話を聞きだすことと、相手の評価をすること。この二つはしっかり分けておく必要があります。話を聞く側が自分の価値観で簡単に決めつけてしまったら、話になりません。本人に説明を求める以上、人間の行うことは基本的に理解ができるはずだという前提でいることです。話を聞く人は少なくとも、「君の言うことを理解する」という態度をとらなくてはならないのです。』(P46)

友人であったり、家族であっても、なかなか理解しにくい行動や趣味を持っている場合もある。それを非難したり、気持ち悪がっても何も進まない。
そういう事に至ったプロセスや流れをはっきりし、少なくともそれに到達した理由はわからなくてはならない。

我々は自由主義の世界に生きている。自分が理解できなかったり、嫌だから排除すると言う考えは間違っている。
我々はどんな相手に対しても、しっかり向き合わなくてはならない。

 

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)